SketchUpを活用したアプローチで日本の伝統建築を次世代につなぐ
宮大工の棟梁である父の背中を見て育った吉川 宗太朗氏が、「お客様の夢に出てきた塔を実現する」という前代未聞のプロジェクトでどのようにSketchUpを活用したかについてご紹介します。
日本・東京、千葉
1975年の創業以来、日本建築の要である社寺建築に一貫して取り組んできた吉匠建築工藝。令和5年には関東圏を中心とした国宝、重要文化財建造物の保存修理・後進の育成などで文化財保護に寄与した功績を称えられ、同社の棟梁である吉川輔良氏が文化庁長官表彰を受賞しています。今回は「心の拠り所となる伽藍を残していきたい」という想いをつなぐ代表取締役の吉川 宗太朗(よしかわ そうたろう)氏にお話を伺いました。
吉匠建築工藝 代表取締役 吉川 宗太朗 氏
本記事では、日本の伝統建築を次世代に継承していくうえでSketchUpが果たす役割、技術スペックにおける課題解決の手法、SketchUpを活用した新しい合意形成の手法などについてご解説いただいています。
インタビュー(撮影協力:真宗出雲路派本山毫攝寺 T&I 3D株式会社)
伝統建築の世界での長年の課題を解消
社寺建築の世界へ入られたきっかけは?
私の父は宮大工の棟梁をしており、子供のころからその背中を見ながら一緒に現場に出て、少しずつ大工仕事を覚えながら成長してきました。宮大工になるというのは私にとって当然の選択だったと思います。父の功績は広く称えられ、その名声は常に耳に入ってきました。「父の仕事は素晴らしい」という想いが私をこの世界に引き寄せました。現在に至るまで、父は私の一番の師匠です。
日本の文化的構造を日本の遺産として保存していくこの仕事は、先人の知恵と技術の賜物。図面が残っているものも僅かにありますが、多くは口伝で継承されてきたものです。この流れを絶やすことなく引き継ぎ、次の世代へと伝承していくことが私の使命だと考えています。
日本の文化的構造例
SketchUpを導入した理由と導入後の変化について教えてください。
社寺建築のプロジェクトにおいては、納期や技術スペックなどさまざまな問題との戦いが付き物です。特に技術スペックを上げるために、これまでは200~250万円といった高スペックPCへの投資を行ってきました。それでも限界はあります。しかしSketchUpを導入したことで、大規模な点群のスキャンや3Dモデルの作成が非常にスムーズに行えるようになり、問題となってきたさまざまなことを克服することができました。
一枚の紙のスケッチから唯一無二の建造物を生み出す
SketchUpを活用したプロジェクトの事例について教えてください。
私はSketchUpをこれまで、さまざまなプロジェクトにおいて活用してきました。昨今の事例としては、東郷神社、八王子神社、 八王子市南町・八王子市八幡町・越生本町・越生河原町山車改修工事などが挙げられます。
これらに加え、最も印象に残っているプロジェクトとして、お客様の夢に出てきた塔を実現するというものがありました。FAXで送られてきたスケッチをもとにSketchUpでモデリングを行い、現在の環境をスキャナーでスキャンしてオフィスに持ち帰りました。塔が形になった際には、お客様に心底喜んでいただけたのを覚えています。
クライアントが夢で見たという塔のスケッチ
今後着手するプロジェクトとしては、福井県の唯一の国宝である明通寺本堂を3Dスキャンするというものがあります。新幹線の通る福井でアクセスも良く、唯一の国宝でありながら訪れる人が少なかったことが課題でした。素晴らしい建造物があるのだから、ぜひ多くの人の訪れるきっかけになればと考えています。
合意形成のプロセスでSketchUpはどのようなベネフィットをもたらしていますか?
SketchUpは現在、社内のほぼすべてのプロジェクトで活用されています。よほど見慣れた方でなければ、どのお客様も図面だけでは実際のイメージを感じ取ることができません。一方でSketchUpによる3Dモデルは、誰もが一目瞭然に実際のイメージを感じ取れます。
また建築デザインのフェーズでもSketchUpは非常に有用です。本当にスケッチをする感覚で3Dモデルを立ち上げられるため、簡単に構造物を作り、イメージに触れることができます。
点群からの3Dモデル作成も、さまざまな関係者の合意形成に役立っています。たとえば事務方で建材などの数量を確認したり、現場の大工さん側でお客様にビジュアライゼーションを行ったりといったケースです。すべての工程においてすべての関係者の合意を形成できるため、実際に工事に入ってから竣工するまで齟齬がなく進められます。
真宗出雲路派本山毫攝寺(福井)の鐘楼(左)とスキャンデータ(撮影協力:T&I 3D株式会社)
SketchUpで個人的に気に入っている機能はPush/Pullです。初めて使用した際、「これほど簡単にモデリングできるのか」と衝撃を受けました。
SketchUpはそのうえで、非常に重要な役割を果たしてくれるでしょう。
今後、建設業界でも自動化の波が進んでいくと考えています。SketchUpは間違いなくその一助となるでしょう。
最先端を走りつづけるためにSketchUpを活用していきたい
SketchUpを学ぶ若い世代にアドバイスをお願いします。
若い世代にSketchUpを浸透させていくために、私は「まずは触ってみよう」と伝えています。こうしたツールは実際に触れてみることで変化を体感し、楽しむことができるからです。
私自身、もともとスケッチを描くことが好きで、今の仕事でもモデリングの工程が一番の楽しみです。SketchUpには電車の中での時間つぶしにも使用するほどのめり込んでおり、自分の子どもたちにもSketchUpを教えています。モデリングしたデータを3Dプリンタで出力して得体のしれないキューブのようなものを作り出したりと、とても楽しみながら使っている様子です。前述のように「触れる」ことで変化を体感できることが面白いのだと思います。
技術伝承において最も重要なのはどんなところだとお考えですか。
私たちが携わる宮大工の仕事は一見、不変のまま伝統的に引き継がれてきたように見えるかもしれません。しかし私は「変えていいもの」「変えてはいけないもの」のどちらもあり、それを常に判断していかなければいけないと考えています。
たとえば、これまで鋸を使って手で進めてきた部分は、電動の丸鋸が取って代わっていますが、効率化を進めていくうえで「変えていいもの」です。
一方で、「宮大工はどの時代でも最先端を走る」ということは「変えてはいけないもの」だと考えます。どの時代も最先端を追求し続けていたからこそ、立派な建物を遺してこれたのです。
私たちのミッションは、日本の伝統建築を次世代につなぐこと。後継者が少なくなってきた今日、若手を中心にその楽しさをぜひ伝えていきたいと思います。
八王子神社(修復前)
八王子神社の現況を点群でSketchUpに取り込んでLayoutで2次元図面化
プロジェクトのどの段階でもSketchUpを使うことができます。無料トライアルを開始するか、サブスクリプションでご購入をご検討ください。