100年に一度の鉄道リノベーションプロジェクトで合意形成を支えたSketchUp
3Dモデルを活用した建設計画の検討業務に携わる池田 仲裕氏が、銀座線渋谷駅のリノベーションプロジェクトでどのようにSketchUPを活用したかについてご紹介します。
東京メトロ銀座線渋谷駅移設プロジェクトの外観
日本・東京
「安心で快適な生活環境づくり」を理念に、1946年の創業以来一貫して社会課題の解決に取り組んできた東急建設。次世代に向けたサステナブルな社会の実現に挑戦しています。今回は都市開発支店 鉄道土木部 D.T.I.推進事務所で所長を務める池田 仲裕(いけだ なかひろ)氏にお話を伺いました。
東急建設株式会社 都市開発支店 鉄道土木部 D.T.I.推進事務所 所長 池田 仲裕 氏
本記事では、SketchUPを導入することでもたらされるベネフィットや、実際のワークプロセス上での活用手法、SketchUPを活用した若手育成の手法などについてご解説いただいています。
インタビュー
貴社の事業内容と池田様の携わる業務内容について教えてください。
東急建設が営むのは、ビル事業や鉄道事業、ダム・トンネル事業、土木構造物事業、不動産事業などを幅広く手掛ける総合建設業です。私は1997年に入社し、以降25年以上、首都圏における鉄道の大規模改良工事に従事してきました。現在は3Dモデルを活用した計画検討業務に携わっています。
自分の考えたものや計画したものが実際に出来上がっていく達成感や充実感は建設業界ならではだと私は考えています。中でも3Dモデルを作成することは大きな楽しみです。これまで2次元だとなかなか見えなかったものが詳細までリアルに見え、具体的なイメージを つかむことができます。
SketchUpを導入した理由と導入後の変化について教えてください。
私が本プロジェクトにSketchUpを導入したのは2017年。モデリングが簡単で、ステークホルダーに非常にわかりやすく説明できるというのが選定の理由です。
渋谷駅を3次元モデルで可視化
これまでモデルやパース図の作成は専門業者に委託しており、地元説明会や行政との協議を進める中で、新たなものを付け足すなどの計画変更をスピーディに反映させることが難しい状況でした。
しかしSketchUpの導入により、リアルタイムで計画変更 を反映させることが可能になりました。この変化は工事関係者だけではなく、地元住民の方々や行政関係者、警察、道路管理者なども含めたすべてのステークホルダーに対してベネフィットをもたらしていると考えます。
ワークプロセスの中でどのようにSketchUPを活用されていますか?
SketchUpを活用するために重要な点は、設計計画の初期フェーズから使用することです。設計計画が固まる前から3Dモデルを作成しておくことで、その後に起こる不具合を事前に解消することが可能です。実際に私は設計計画の初期フェーズからSketchUpでモデリングし、施工協議や設計不具合の検証、細かい施工計画の策定に活用しています。
SketchUpはプロジェクトの上流だけでなく、下流にもベネフィットをもたらします。設計計画の初期フェーズで3Dモデルを作成することにより、施工の段階に入ってから4次元シミュレーションを行ったり、VR空間に入って施工シミュレーションを行ったりすることが可能です。上流と下流それぞれで別の使い方ができるため、SketchUpはプロジェクト全体をシームレスに支える役割を果たしています。
上流から下流までの工程を通してSketchUpで3Dモデル化
インフラ設備の大型プロジェクトでSketchUpを活用
SketchUpを活用したプロジェクトの事例について教えてください。
現在私が携わっているのは銀座線渋谷駅のリノベーションプロジェクトですが、これは100年に一度の大規模な再開発と言われています。工事の経緯としては、2009年に着手し、2020年の1月に新しい駅舎に移設。新駅舎で鉄道事業を営業しながら東側の工事を行い、2021年より西側の工事を開始。ビルを撤去し、新しい橋梁を2基架設するという工事を現在進めているところです。
しかしこれだけ大規模なプロジェクトにおいて、2次元の図面だけではなかなか若手の理解を得ることができません。そこでSketchUpを活用することで、若手が今携わっている仕事や計画を理解できるようになりました。若手がプロジェクト全貌を「早く」「正確に」理解できるようになったというのが社内での大きな変化です。
渋谷駅リノベーションプロジェクトの実際の工事の様子
設計プランにおいてSketchUpはどんな役割を果たしていますか?
私が携わっている鉄道リノベーションでは、電車が運行されている状態で工事を進めるため、土木建築だけでなく、電気信号部門や営業部門など、さまざまな部署のステークホルダーが関わります。
その中でスムーズに全員の合意形成を取るうえで、SketchUpのもたらす可視性やコミュニケーション/コラボレーション/プレゼンテーションツールとしての優秀さが活きています。
さまざまなステークホルダーによる合意形成をSketchUpで実現
また、2次元の図面では表現できない電線や電柱などの現地設備や施設物を可視化するうえでSketchUpによる点群データの活用は非常に重要です。実際に施工する際に施工機械が干渉しないか、計画している構造物が既設構造物に干渉しないか、といった検証をデータ上でできるようになりました。施工前に不具合を顕在化できるのは大きなメリットです。工事が複雑であればあるほど、SketchUpの重要性を実感します。
SketchUpは他のツールとの互換性も良く、私はたとえばCivil3DをそのままSketchUpにインポートして使っています。また、SketchUpのデータをシミュレーションする際、レンダリングソフトウェアのTwinmotionにインポートするといった使い方もします。私はSketchUpをメインで使っているため、自ずとSketchUpと親和性のいいソフトウェアを併用している形です。
Scan Essentialsによる現況を点群で取り込み可視化されたケーブル
実際の残置ケーブル
SketchUPの3Dモデルを活用するうえで、どんな注意点がありますか?
3Dモデルは非常に便利な一方デメリットもあり、私はこれを「BIM/CIMの弊害」と呼んでいます。3Dモデルは作ることが目的ではなく、作ってからがスタートです。3Dモデルを過信せず、可視化された計画をさらに深度化させなければ意味がありません。
教訓になった事例として、前述の銀座線渋谷駅の工事の一部をご紹介します。ある現場では工区ごとに担当者が分かれており、私が作成した3Dモデルを全工区で共有しました。その際、ある工区では「クレーンはここに据えた方がいい」「こちらに旋回した方がいい」といった議論が沸き起こり、別の工区では「これなら簡単にできる」と判断したのです。結果として前者の工事は非常にスムーズに行われ、後者の工事はなかなか計画通りに進まないという結果になりました。
3Dモデルは「わかりやすい」というだけではそれほどメリットはありません。2次元を単に3次元化しただけでは気づかなかったことを顕在化させる。そこにベネフィットがあると私は考えています。
本来の「技術力」を身に付けて欲しい
SketchUPを活用した今後の貴社の展望について教えてください。
かつて2次元の図面しかなかったころは、完成形を空間的に捉えることが難しい状況でした。設計・計画者はある程度イメージできているものの、第三者との間では齟齬が生じていたという状態です。また、関係者の技術レベルの差によっても合意形成の精度が異なっていました。今はSketchUpの3Dモデルを活用することで、こういった齟齬がなくなり、関係者の技術レベルに関係なく合意形成の精度が一定の質で保たれます。
建設業界は慢性的な人材不足が続いており、働き方改革により就業時間も限られるようになりました。若手技術者の入社数も減少し、技術を学ぶ時間も限られているのが現状です。こうした中で、いかに技術を伝承していくか、というのが私たちの大きな課題です。しかし従来のやり方ではキャッチアップできないと考えています。
そこで私が取り組んでいるのはSketchUpの活用です。ただし、単に3Dモデルを作成するスキルを身につけるだけでは意味がありません。工事の技術自体を知らなければ施工ステップを描ききれないためです。完成形は描けても、途中のフェーズを描けなければ、施工担当者への助言もできません。
昨今ではYouTubeをはじめとした動画ツールが身近なものとなりました。こうしたツールとSketchUpを併用することで、新しい形でのトレーニングが可能となっています。具体的には、SketchUpで3Dモデルを作成しながら各フェーズに対応していく様子を動画で撮影し、それを見ながら施工技術を体感的に学んでいくという手法です。この手法は若手にとって非常に効果的だと私は考えています。
モデリングのスキルは当然必要ですが、それだけを磨いても意味がありません。本来の建設の技術力を身に付けない限り、SketchUpのような優秀なツールを活用する能力が身につかないからです。まずは若手に技術力を磨かせること。それが今後の建設技術継承を支える第一歩となるでしょう。
リノベーションに関わる渋谷駅周辺をすべてSketchUpで3Dモデル化
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