南山の大型プロジェクトにおける道路擁壁の計画変更イメージをSketchUpで可視化
建築と土木の両分野の融合を目指す佐藤 将路氏が、都道 231 号線の付替えを手掛ける「南山プロジェクト」において、主に土木の分野でどのようにSketchUpを活用したかについてご紹介します。
都道 231 号線の道路付替え工事の様子
日本・東京
1873年の創業以来、日本の近代化や戦後復興、経済成長、グローバル化といった社会の変化とともに土木・建築・エンジニアリングの領域にわたり数多くのプロジェクトを手掛けてきた大成建設。今回は、土木本部 土木技術部のBIM/CIMチームにてチームリーダーを務める技術士(建設部門)であり一級建築士の佐藤 将路(さとう まさみち)氏にお話を伺いました。
大成建設株式会社 土木本部 土木技術部BIM/CIMチーム チームリーダー 佐藤 将路 氏
本記事では、土木の分野でSketchUpが果たす役割やSketchUp導入による3Dモデルの活用手法、建築・土木両分野の融合の可能性などについてご解説いただいています。
インタビュー
SketchUpの活用で、世の中に3Dモデルを広めたい
現在携わっている業務内容と、仕事をするうえで大切にしていることを教えてください。
私は勤続20年になりますが、入社後は、現場の施工管理の経験や、10年以上設計プロジェクトに携わり、現在はBIM/CIM関連の業務を担当しています。具体的には、3Dモデルの作成からICT関連まで現場の様々なことに対応しているイメージです。
通常、ひとりの人間が建築と土木双方に携わるケースは少ないですが、私はこの2つの融合を重要だと考え、土木分野の技術士資格だけでなく、一級建築士も取得することで、まずは自分の中でこれらを結びつけることにしました。
業務上、上流から下流まで幅広いステークホルダーと関わりながら仕事を進めていく中で、大切にしているのは「自分が相手の立場ならどう考えるか」を常に意識することです。どのフェーズでも「相手ありき」の仕事ですから、相手が一番欲しているのは何かを推察しながら進めています。そして、建築と土木双方のプロフェッショナルであること、それこそが私の求める姿です。
SketchUpを導入した理由と導入後の変化について教えてください。
SketchUpとの出会いは約15年前のこと。趣味で建築デザインの学校に通っていた際、小さな美術館や共同住宅を作成する課題があり、頭に描いたイメージを直接パソコン上で3Dモデルに変換するために使用したのがきっかけでした。その操作性の良さから仕事にも導入し、現在に至ります。
当時は2次元図面でのやりとりがメインで、どうしても説明性に欠けるという課題がありました。「3次元モデル作成が世の中に足りていない」という認識から、SketchUpを活用した3Dモデリングをどんどん進めていったのです。SketchUpの活用が、3Dモデルを世の中に広める第一歩になると考えています。
すべてのステークホルダーとの意思疎通を可能にするSketchUp
SketchUpを活用したプロジェクトの事例について教えてください。
現在私の携わる仕事の中でSketchUpの使用比率は90%以上。100を超えるプロジェクトで活用しています。ここでは、その中でも大規模なプロジェクトである「南山プロジェクト」をご紹介しましょう。
同プロジェクトは東京都稲城市の南山東部土地区画整理事業における都道 231 号線の付替え道路として、延長 140m の掘割擁壁(最大高さ 15.6m)をトンネル坑口から設置するものです。ここでは道路擁壁の計画変更にあたり、ビフォーアフターを比較する際、アフターの部分でSketchUpを活用しました。
道路擁壁は人目に大きく映るため、景観の細かい再現が重要です。ここでSketchUpによる3Dデータを活用することで完成形のイメージがしやすくなり、発注者を含めたすべてのステークホルダーにより理解を得ることができました。プロジェクト全体としても非常にスムーズに進んだと記憶しています。
都道 231 号線付替え道路をトンネル坑口から設置するためにSketchUpの3Dモデルで確認
これまで3Dモデルは「見るだけ」のものとなっていましたが、SketchUpを実際に使用することで、誰もが「こんなに簡単にモデリングできるのか」という感動を味わえるようになりました。結果として現場の進行もうまく機能するようになります。こうした成功体験をもとに全国各地でSketchUpを広めていきたいと考えています。
SketchUpはBIM/CIM促進やライブラリ化にどのような役割を果たしていますか?
3D CADツールを選定する上で重要なのは「使いやすさ」「安さ」「軽さ」の3点が重要だと私は考えています。SketchUpは、前者2つはもちろんのこと、「軽さ」において飛び抜けて優秀でした。他のツールでは非常に高機能なPCが必要となり導入にあたってPCスペックを向上させるためのコストも考えなければなりません。その点SketchUpでは標準的なPCをそのまま活用できるため、総コストとしても優れていました。
さらにSketchUpはシンプルなインターフェースで誰もが簡単に扱えるため、CADオペレーターなどの専門職に限らず、すべての関係者が使用できます。今後、BIM/CIMを促進していく中で、SketchUpは必須のツールと言っても過言ではないと思います。
また、土木分野で施工の部分を可視化する上でもSketchUpは重要な役割を果たしています。重機や仮設構造物などの3Dモデルをライブラリ化することで、現場も3D モデルを簡単に活用することが可能です。現在、ライブラリを「動的コンポーネント」として、およそ30のモデルを作成していますが、今後もどんどん増やしていく予定です。
土木の分野でSketchUpを活用するメリットについて教えてください。
まだまだ3Dモデルの活用が進んでいない土木分野ですが、SketchUpによるモデリングはさまざまな効果をもたらしてくれます。
まず事前に3Dモデルを作っておくことで、早い段階で問題点を解決することが可能です。
説明性の高さも重要です。2次元の図面から全体像を理解するには結構な時間がかかってしまいますが、3Dモデルを見れば数分で理解できます。これはさまざまな協議や打ち合わせで非常に役立っています。
グラウンド・アンカーを3Dモデルで確認
また、3Dモデルには「感動を与える」力もあります。ミニチュアや模型を見たときと同じような感動を与える、この力は今後の建設業界の人気を高める上で大きな役割を果たすでしょう。
また、3Dモデル作成に加えて、SketchUp(Scan Essentials)では点群を風景として活用できると考えています。土木分野では広い敷地の中で、どこにそのモデルが存在するのかという課題がありますが、点群はその最適解と考えています。点群を置いておくことで全体のイメージが現場で共有でき、説明性が高まります。
建設業界の世界展開に向けて
SketchUpを学ぶ方に、おすすめの機能を教えてください。
私は約1年前から社内外でSketchUpの講習会を行っていますが、その受講者数は1500名にのぼります。人気の機能は「Push/Pull」。はじめに使うツールですが、複雑な形状でも効率よく3Dモデルを作成できるため、実際に使用することで、3Dモデル作成の簡単さを体感できるのではないでしょうか。現在SketchUpは主に社内で展開していますが、今後は社外でも使える環境を整えていければと考えています。
掘削擁壁の施行手順(SketchUpのPush/Pull機能を使用)
建設業界の将来の展望についてどうお考えでしょうか?
日本の人口が減少に向かう中、世界の人口は増え続けています。そのため、日本の企業は今後もどんどん世界へ進出していかなければならず、建設業界も例外ではありません。その際に土木と建築の融合は大きな強みになると私は考えています。今後SketchUpのユーザーを土木の中でも増やしていくことで、土木と建築の境界が薄まり、一体となっていくことを願っています。
プロジェクトのどの段階でもSketchUpを使うことができます。無料トライアルを開始するか、サブスクリプションでご購入をご検討ください。